一の瀬焼 - 受け継がれる伝統 - アクロス福岡
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受け継がれる伝統

一の瀬焼

一の瀬焼
▲イラスト・有馬沙里 ▲一の瀬焼

約400年前の秀吉の朝鮮出兵時に、かの地の陶工を招いて窯を開いたと言われる一の瀬焼。明治期に一時廃窯となったものの、戦後浮羽町の有志たちによって町の復興のために復活する運びとなった。小石原焼や黒牟田焼、小鹿田焼(おんたやき)など各地の焼き物の里から陶工を集めて再興をしたため、現在も6軒ある窯元の作風は全く異なる。それぞれに個性が際立っているので、窯めぐりをしても楽しいというのが一の瀬焼の特徴だ。

今回お話を伺った雲水窯の田中陶文(とうぶん)さんの父親も、小鹿田焼の窯元の家に生まれたその一人。七人兄弟の七番目であったことから、実家は長兄が継ぎ、本人はこの地で新しく窯を開いた。その田中窯の二男であった陶文さんもまた、実家を長兄に託し、5年前にこの雲水窯を開窯したという。

「“一の瀬焼”としてのルールは特に設けず、それぞれの窯が自由なスタイルで作品を作っているのが却ってこの時代に即しているような気がします。一子相伝とか世襲という形がないので、私も独立して新しい窯を開くことが容易にできたし、作品にもさまざまなチャレンジが生かされる。伝統を守ることだけに執着した結果、廃れたり無くなったりする伝統工芸が多いなか、こうしたルールなき自由なスタイルもいいのではないでしょうか」

時代や年齢に沿って、作風がどんどん変わっているという陶文さん。今は土の味を存分に生かした、力強い作品が多い。

「大地や木々など自然から得たインスピレーションを形にすることが多いですね。もう四十数年陶工をしていますが、未だに極意は会得していません。誰が見ても、いい!と本能的に感じるような作品を作りたいと思っています。息子も少しずつ作りはじめていますが、受け継ぐかどうかは、彼の判断に任せたい。これも“自由”なスタイルですから(笑)」

県内はもちろん、長崎や熊本、時には遠く仙台から足を運ぶお客さんもいるのだとか。ギャラリーには陶文さんの作品でコーヒーを飲めるという、贅沢極まりないカフェスペースが設けられている。

(文・上田瑞穂)

  • 雲水窯(うんすいがま)
    うきは市浮羽町朝田1050-2
    TEL:0943-77-2564