#19 株式会社うなぎの寝床代表取締役 白水 高広(しらみず たかひろ) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力 NEO

#19 株式会社うなぎの寝床代表取締役 白水 高広(しらみず たかひろ)

株式会社うなぎの寝床代表取締役 白水 高広(しらみず たかひろ)

大学では建築を学んでいたため、同級生の多くはゼネコンや建設会社などに就職しました。ただ、そのころすでに、住宅供給は過剰と言われる飽和状態に陥りつつあり、私の興味は新しく生むよりも、あるものをどう生かすかに傾いていました。卒業後、進路を迷いながら福岡でデザインの手伝いなどをしていたときに、九州ちくご元気計画という厚労省の事業から一緒にやってみないかと声をかけていただいたんです。伝統工芸などが多く継承されている筑後地域で、職人や農家といった生産者と、料理研究家や建築家など付加価値を加える人たちを繋げて新たに産業を生みましょうという事業。人を繋げることで新たな価値が生み出せるという面白さを知り、2年半の任期の間に多くの魅力的な人に出会うことができました。
そこで、魅力的なものがあっても誰にも知られないのはもったいない、まとまってそういったものを手にできる場所があれば…という想いで2012年に九州筑後のアンテナショップを作ったんです。「こんな場所で小売が成り立つのか?」等ご心配もいただきましたが、いいものがあれば人は集ってくるはずだ、という性善説に基づいて思い切りました(笑)。
実際に自分がたくさんの人と出会う中で感じたのは、地域にこそ面白い人材や技術といった財産が眠っているということ。都市で仕事をしていた際には、メディアや本に出ているような方などを含めたくさんの人に会う機会がありました。しかし私自身はそういった人たちよりも、地域の農家の方や職人さんなどから得るもののほうが、リアリティがあって圧倒的に面白かった。こういった人たちの作品や活動が社会に伝わったら、きっと喜ばれるはずだと根拠のない確信があったんです。
それからは「地域文化商社」と自分たちを称して、地域文化をさまざまな観点から取り扱っています。例えば、九州とオランダの交流400年の記念事業としてオランダのアーティストに久留米絣を使った作品を作ってもらったり、フィンランドのデザイナーに提灯を使ってアートを表現してもらったり。異文化と地域文化を結び付けると新たな価値が創造されるんです。マリー・アントワネットのドレスの生地見本を絣で復活させたり、仏壇彫りの技術でカトラリーを作ってもらったことも。伝統工芸を学術的見地から研究することもありますし、芸術と結び付けたり、経済的視点から課題を洗い直すこともあります。そういった、作り手が気づいていない魅力や可能性を改めて見つけ出して、新たなマッチングをすることでものづくりの伝達者になりたいと思っています。彼らは作る人、私たちは伝える人、という役割分担ですね。
今、新たに立ち上げようとしているのが、旅行会社。通常の旅行ではなくて、生産者の想いなどを体感できる全く新しい旅を作り出したいと思っています。ただ「見る」だけの旅ではなく、「知る」「体験する」「学ぶ」というニーズに応えられるような、そして地域全体が活性化するような旅を創造していきたいと考えています。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 1985年佐賀県小城市生まれ、大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。2009年厚生労働省の雇用創出事業「九州ちくご元気計画」に関わり2年半プロジェクトの主任推進員として動く。同事業は2011年グッドデザイン賞商工会議所会頭賞を受賞。その後2012年7月にアンテナショップうなぎの寝床を立ち上げるとともに、現在まで地域文化商社として成長させている。他地域・他社のコンサルティングや制作、アドバイス、リサーチなども精力的に行っている。