#20 写真家 石川 賢治 (Ishikawa Kenji) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力

#20 写真家 石川 賢治 (Ishikawa Kenji)

写真家 石川 賢治

大濠公園の近くで生まれ育ちましたが、大学進学時に上京してからは最近までずっと東京暮らしでした。私が若いころは高度成長期、刺激に満ちあふれていましたね。卒業後は五輪や万博のポスターなどを手掛けた日本初の広告会社「ライトパブリシティ」に入社し、篠山紀信さんたち先輩方とともに商業カメラの世界で飛び回っていました。30歳になったらフリーになりたいと思っていたので、その意思通り10年ほどでフリーランスカメラマンとなり、その後もテレビコマーシャル(CF)やスチールなどを多く手掛けてきました。

そんなある時、航空会社のCF撮りのためにハワイ4島を巡る機会がありました。最初に訪れたカウアイ島で、深夜にまで及んだ撮影の後、寝る前に一人宿を出て海まで散歩しようと夜道を歩いていたときのことです。外灯も何もないのに、周りがはっきりと見えるほど明るいことに感動をしていました。その日は満月でした。月光を頼りに原っぱを歩き、真っ暗な林を抜けると、突然、満月に照らされた真っ白な砂浜が目の前に現れたのです。東京では考えられない月夜の明るさにしばし驚いて夜の風景を見ていたら、鳥が目の前の海面スレスレを横切りました。その瞬間、ハッとしたのです。「もしかしてこの光景を、写真で撮れるのではないか」と。

当時はまだフィルムで撮影していた時代。月の弱い光では光量は足りず、撮影ができないことは常識でした。その後すぐサイパンを訪れる機会があり、遊び半分にポラロイドでジンジャーの蕾を撮ってみることに。モノクロの影でも写っていればと思っていたのに、白い蕾の先のピンク、木々のグリーン、ジャングルの影、濃紺の夜空が、太陽と同じ発色で写っていました。この時宇宙的衝撃を受けて、月光写真がライフワークとなって33年になります。

パラオの海底からヒマラヤまで、世界中の原野を満月の光だけで撮影し続けてきました。原野に立つと影が地面にくっきりと映り、草花の色、景色、そして地平線から上に、銀河、宇宙が一つながりに見えます。

昼間は雲や青い空というカーテンに閉ざされて宇宙の姿は見えませんが、夜になるとこの世界と宇宙が目の前でつながります。その感動を、作品にし続けてきました。昨年住み慣れた東京を離れ、糸島半島に移住したのですが、それも自然と満天の星空に近い場所だったから。月光写真を撮り続けて30余年が過ぎた今、次なるステージとしてマクロの世界と宇宙をつなぐ作品を創造していきたいと考えています。一本の花や小さな昆虫を通して、宇宙を感じる写真を撮りたいと、糸島の地で新たなチャレンジをし始めています。
(文・上田瑞穂)

プロフィール1945年福岡市生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業ののち、ライトパブリシティ写真部に入社。数々の商業写真を手掛け、1974年にフリーランスに。1984年から満月の光のみで写真を撮る月光写真家として活動をはじめ、ネパールやパラオなど世界中で作品を撮り続けている。写真集出版多数、最新作は「月光浴 青い星」(小学館)。平成14年福岡県文化賞受賞。